三浦南海子さんが私の胸に黄色の布きれ(ドレープ)を掛け、「どうですか?顔色が変わるでしょ?」と質問されたのは、何年前のことだったか。「色」を意識するようになった転機がこの時でした。
医療は感覚ではなく、客観的な指標を重視する傾向があります。患者さんの顔色や表情を見ることは重要なのですが(視診)、それでも現代医療では検査データなどの数値を重んじてしまいます。
三浦さんの質問の中で、「この病室の明かりで患者さんの黄疸の有無を判定できるのですか?」には驚かされました。
確かに、療養病床はリラックスする環境を醸し出すために、赤みを帯びた照明にしていたのですが、確かに照明の色の影響は受けるものと実感したのです。
介護の世界に色を利用することを思いついたのはこの時です。
日常の溢れるほどの色、しかしどれほど我々は意識しているでしょうか。美しい花々、四季の景観、色とりどりの現代社会ですが、認知症に悩む方々の多くが、「色を失っているのではないか…」と思うようになりました。
毛染めもせず、化粧っ気もなくなり、起きたままのパジャマ姿で過ごす施設入所中の認知症の利用者さんたちを観察してみると、その多くは白や灰色の印象の薄い様相で、表情もうつろになっています。
「色」には「色気」の要素もありますよね。情熱を失い、生きがいを失いかけている方々に「色を取り戻す」ケアをできないものか…。
三浦さんと一緒に命名したのが「彩色ケア」でした。
口紅ひとつ塗るだけで、表情も変わる事、髪の色を若い頃の色に染めなおすだけで、活き活きとした雰囲気に変わるなど等多くの体験をしました。
ケア側のスタッフの制服も白衣や運動着ではなく、カラフルなポロシャツなどに自由に選べるようにした取り組み(カジュアルデー)も暗い雰囲気の介護の現場がガラッと変わりました。
色を取り戻すことの意味を改めて感じることが多くなったのです。
では、認知症に悩む方々の内面から色を取り戻すには何かいい方法はないだろうか…。その答えの一つが、「色かるた」です。
過去の記憶をたどる回想法とは異なり、目の前にある色を選択し、色をたどり、色の印象から過去の思い出に心の琴線に触れる体験ができる「色かるた」の素晴らしさを是非とも皆さん体験してみてください。
いつまでも色気のある人生を送りたいものですよね。
医師 医療法人景翠会 金沢病院 副院長
介護老人保健施設「こもれび」「ふるさと」顧問
公益社団法人全国老人保健施設協会 副会長など
折茂賢一郎